投資家のレンズで
投資家目線で読む──「お金の流れの法則」として
元衆議院議員で投資家の杉村太蔵氏は、自身のYouTube動画で骨太方針を「この国のお金の流れの法則を決めるもの」と呼び、投資家にとっての教科書だと語っています。日々の株価に追われるのではなく、国がどの方向にお金を流そうとしているかを先に読む——この章では、その目線で骨太方針2026を読み直してみます。
先にひとつ、正直な断り書きを。政策に沿った投資が必ず報われるわけではありません。「国策に売りなし」という相場格言がありますが、格言は法則ではなく、政策テーマの投資は期待が先行して値段が先に上がりやすいことも知られています。この章は「読み方」の紹介であって、成功の保証ではありません。
分析 1 投資額を「年あたり」に直すと、順位が変わる
報道された分野別の投資想定額(62技術のうち金額が判明している主なもの)を、対象期間で割って「年あたり」に換算してみます。2026年度から始まると仮定した単純計算です。
半導体 約4.5兆円/年 総額68.0兆円・2040年度まで(15年)。年あたりでも総額でも首位。国は国内半導体売上高を2030年に15兆円・2040年に40兆円へ伸ばす目標を明記
クラウド・データセンター 約3.3兆円/年 総額32.7兆円・2035年度まで(10年)。AIの計算需要を支える「基幹インフラ」。国内クラウド市場を2035年までに30兆円規模へという目標も
ゲーム 約3.1兆円/年 総額24.5兆円・2033年度まで(8年)。総額では4番手なのに、期間が短いぶん年あたりでは3位に浮上。「前倒しで濃く」投資される分野
バーティカルAI(領域特化型AI) 約1.5兆円/年 総額23.1兆円・2040年度まで。総額はゲームとほぼ同じでも、年あたりでは半分。じっくり長期型
バイオ医薬品 約1.4兆円/年 総額20.8兆円・2040年度まで。2040年に世界シェア10%・売上33.4兆円という目標を明記
フィジカルAI/量子 各 約0.7兆円/年 総額10.5兆円/10.3兆円・2040年度まで。金額は小さめでも、AIロボットは「2040年に世界シェア3割超・20兆円市場」の看板目標つき
投資想定額は事業構想オンライン等の報道による(2026年7月時点)。年あたりは2026年度開始と仮定した単純換算。一次資料では「フィジカルAI・半導体で80兆円の官民投資を引き出す」(官民投資ロードマップ概要・官邸)とされ、報道の内訳と整合します。
ここがポイント 杉村氏が動画で「コンテンツは他分野より前倒しで重点投資される」と注目していたのは、まさにこの構図です。合計の大きさだけでなく「単位時間あたりの濃さ」で見ると、お金の流れの勢いが見えてきます。
分析 2 政策と接点のある銘柄の例──「なぜその会社か」まで言えるか
次に、上のお金の流れと事業の中身が事実として重なっている上場企業の例です。おすすめではなく、「政策文書から企業までを線でつなぐ練習」として読んでください。
- 東京エレクトロン(8035)──半導体製造装置の国内最大手。国内半導体売上を2040年に40兆円へという目標は、工場と製造装置への投資そのものを意味します。年あたり首位の分野の「装置側」です。
- ソニーグループ(6758)──ゲーム・アニメ・音楽・映画という、62技術に並ぶコンテンツ4領域を一社でカバー。日本発コンテンツの海外売上の約6割(3.4兆円)はゲームで、その中心プレーヤーの一角です。
- NTT(9432)──62技術に名指しされた「オール光ネットワーク(APN)」は、NTTが主導するIOWN構想の中核技術。海底ケーブルも事業領域で、情報通信分野の本丸です。
- さくらインターネット(3778)──政府のクラウド(ガバメントクラウド)に国内事業者として選定された国産クラウドの代表格で、GPUクラウドを増強中。年あたり2位の分野のど真ん中にいます。
- 三菱重工業(7011)──防衛(艦艇)・造船・ロケット・次世代の原子炉と、17分野のうち複数に事業がまたがる「政策横断銘柄」。危機管理投資の受け皿になりやすい構造です。
- ファナック(6954)──産業用ロボットの世界大手。「AIロボットで2040年に世界シェア3割超・20兆円市場」という国の看板目標の、まさに中心分野です。
政策銘柄の3つの落とし穴 ①期待は先に株価に織り込まれる——実例が上の6社の中にあります。さくらインターネットは2023〜24年、政府クラウド選定やGPU投資への期待で株価が急騰し、そのあと大きく上下しました。政策の追い風が本物でも、買った値段しだいで結果はまったく変わるということです。②政策のお金が届くまで時間がかかる——予算がついても業績に出るのは数年先のことも。③政策は変わる・縮むこともある——概算要求や予算案の段階で方針より小さくなることもあれば、政権や財政状況が変われば、ロードマップごと書き換わります。「国が推すから上がる」ではなく、「国のお金の流れと会社の事業が本当に重なっているか」を確かめるのが、この読み方の作法です。
分析 3 個別に選ばないなら──「政策フォーカス」のETFも登場
「考え方は分かったけれど、個別の会社を選ぶのはむずかしい」——そんな人向けの商品も、ちょうど登場しました。NEXT FUNDS 日本株政策フォーカス上場投信(愛称:NF・政策フォーカスETF、銘柄コード605A)です。野村アセットマネジメントが運用し、2026年7月14日に東証へ上場。政府方針にもとづく重点成長分野に関連する銘柄へ投資する、アクティブ運用型のETFで、まさに「骨太方針を丸ごと買う」ような設計思想の商品です。信託報酬は年0.475%(税込0.5225%)以内、NISA成長投資枠の対象で、分配金は年2回(1月・7月)です。
買う前に知っておきたいこと ①上場したばかりで運用実績がまだありません。②指数に連動するインデックス型ではなく、運用者が銘柄を選ぶアクティブ型なので、中身は運用報告で確認するくせを。③信託報酬は、この記事の別ページで紹介しているオルカン(年0.05775%)の8倍以上です。「政策を読む手間の外注賃」としてこのコストに納得できるかが、判断の分かれ目です。
分析 4 杉村流「骨太投資術」の年間サイクル
杉村氏が動画で語っている実践法は、1年のカレンダーに落とし込めるのが特徴です。
- 6〜7月:骨太方針と「日本成長戦略」を熟読する。17分野・62技術の一覧表は「冷蔵庫に貼るべき」レベルで常に意識する、と氏は語ります。
- 8月末:各省庁の「概算要求」をチェックする。方針どおりの予算が実際に要求されているかを突き合わせ、政府の「本気度」を検証します。方針が言葉だけで終わっていないかを見る、いちばんの試金石です。
- 9月末まで:ポートフォリオを見直す。予算の裏付けを確認できた分野へ、1年間の配分を組み替えます。
氏はほかにも、日本企業の強みは単独製造の「メイド・イン・ジャパン」から、世界と組んで価値をつくる「メイド・ウィズ・ジャパン」へ移っているという見方や、複雑な分野はAIも使って関連銘柄を探すという現代的な工夫、そして「政策を読み解いて投資する“いい投資家”が増えることが、いい有権者を育て、いい政治家を選び、国を良くする好循環につながる」という考え方を紹介しています(動画1・動画2)。
このページとの合わせ技 8月末の概算要求は締め切られ、「投資枠」への各省庁の要求も出そろいました(答え合わせ)。次の節目は年末の予算編成です。方針(7月)→予算要求(8月末)→予算案(年末)と、お金の流れは段階的に固まっていきます。